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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)14号 判決

主文

原判決を左のとおり変更する。

第一審原告らと第一審被告学校法人千葉工業大学との間において、第一審原告らが第一審被告学校法人千葉工業大学の理事であることの確認を求める請求および第一審原告らが第一審被告学校法人千葉工業大学に対し第一審原告らの昭和三六年四月二四日理事を退任した旨の同月二九日付登記の抹消登記手続を求める請求はいずれも棄却する。

第一審原告らのその余の各請求はいずれも却下する。

訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。

事実

第一審原告ら代理人は、昭和四二年(ネ)第一四号控訴事件につき、

「一、原判決中第一審原告ら勝訴部分を除き、その余の部分を取り消す。

二、第一審原告らと等一審被告らとの間において、第一審原告らがいずれも第一審被告学校法人千葉工業大学(以下単に被告学校法人と称する)の理事であることを確認する。

三、第一審原告らと第一審被告らとの間において、

1、昭和三四年一一月一六日東京都中央区日本橋通三丁目二番地川崎定徳株式会社内において開催された、被告学校法人の理事会(以下単に理事会と称する)の、被告学校法人の寄附行為(以下単に寄附行為と称する。)第八条第一項第三号により訴外肥後亭を被告学校法人の理事(以下単に理事と称する。その他の役員についても同じ)に選任し、寄附行為第五条第四項により右肥後亨を常務理事と定めることを承認する旨の各決議、

2、同年一二月三日被告学校法人内において開催された理事会の、寄附行為第八条第一項第三号により第一審被告豊田耕作を理事に選任する旨の決議、

3、同年一二月七日被告学校法人内において開催された理事会の、寄附行為第八条第一項第三号により第一審被告川島正次郎を理事に選任する旨の決議、

4、同年一二月八日被告学校法人内において開催された理事会の、第一審被告川島正次郎を理事長に互選する旨の決議、

5、同年一二月二七日東京都千代田区永田町東京グランドホテルにおいて開催された理事会の、(イ)同年一二月三日付第一審被告豊田耕作理事選任の理事会確認の件と題する決議、(ロ)同年一二月七日付第一審被告川島正次郎理事選任の理事会確認の件と題する決議、(ハ)訴外川崎守之助理事長辞任および同年一二月八日付第一審被告川島正次郎理事を理事長に選任の理事会確認の件と題する決議、(ニ)第一審被告宇佐美敬一郎を理事に選任し、同被告および第一審被告豊田耕作を常務理事と定めることを承認する旨の決議、(ホ)次期理事長に第一審被告川島正次郎、次期常務理事に第一審被告宇佐美敬一郎、次期理事に第一審原告安藤儀三、同青木運之助、訴外古荘四郎彦、同佐藤正典、同武居文助、同長谷川安次郎、同藤井一郎、第一審被告豊田耕作、同千谷利三、同北原広男、同平田梅治、次期常任監事に第一審被告松本栄一、次期監事に訴外田中聖賢、第一審被告南義弘をそれぞれ選考する旨の決議、(ヘ)評議員会の招集を理事長に申し入れる旨の決議、(ト)事件処理費を金二、五〇〇万円以下とし、その支出を認める旨の決議、

6、昭和三五年一月一六日右東京グランドホテルにおいて開催された理事会の(イ)事件処理費金二、五〇〇万円以下の支出を理事長に一任する旨の決議、(ロ)評議員訴外武居文助、同第一審被告北原広男、同訴外小川為幸を寄附行為第八条第一項第二号の理事に互選する旨の評議員会の決議を了承する旨の決議、(ハ)理事訴外川崎大次郎の辞任届を受理することを承認する旨の決議、(ニ)寄附行為第八条第一項第三号により訴外藤井一郎を理事に選任する旨の決議、(ホ)寄附行為第九条により監事に選任することについて評議員会の同意のあつた第一審被告松本栄一、同南義弘を監事に選任する旨の決議、(ヘ)理事長職務執行代理者常務理事の辞任の申出を承認する旨の決議、(ト)寄附行為第八条第一項第三号により第一審被告平田梅治を理事に選任する旨の決議、

7、同日被告人学校法人内において開催された評議員会の(イ)評議員訴外武居文助、同第一審被告北原広男、同訴外小川為幸を寄附行為第八条第一項第二号により理事に互選する旨の決議、(ロ)理事長第一審被告川島正次郎に金二、五〇〇万円以下の事件処理費の支出を一任することに同意する旨の決議、(ハ)寄附行為第九条により第一審被告松本栄一、同南義弘を監事に選任することに同意する旨の決議、

8、昭和三六年六月一三日前記東京グランドホテルにおいて開催された理事会および評議員会の、それぞれ、(イ)理事兼理事長第一審被告川島正次郎、理事訴外古荘四郎彦同藤井一郎、同小川為幸、同佐藤正典、理事第一審原告青木運之助、同安藤儀三、理事第一審被告宇佐美敬一郎、同豊田耕作、同千谷利三、同平田梅治の同年四月二四日の退任を認める旨の決議、(ロ)監事第一審被告南義弘、同松本栄一、監事訴外田中聖賢の同年六月一二日の辞任を認める旨の決議、(ハ)寄附行為第八条第一項第三号により第一審被告川島正次郎、同宇佐美敬一郎、同豊田耕作、同千谷利三、同平田梅治、同南義弘、訴外白鳥義三郎を理事に、寄附行為第八条第一項第一号により訴外佐藤正典を理事に、寄附行為第八条第一項第二号により訴外武居文助、第一審被告北原広男、同堀口貞雄を理事に、寄附行為第九条により第一審被告松本栄一、訴外田中聖賢を監事に選任する旨の決議、(ニ)第一審被告川島正次郎を理事長とし、右以外の理事は代表権を有しない旨の決議、

9、同年七月一〇日右東京グランドホテルにおいて開催された理事会および評議員会における、それぞれ、寄附行為第八条第一項第三号により第一審被告鈴木光勤、訴外小沢久太郎を理事に、寄附行為第九条により第一審被告原勇記を監事に選任する旨の決議、

10、昭和三九年三月二四日右東京グランドホテルにおいて開催された理事会および評議員会における、それぞれ、寄附行為第八条第一項第二号により第一審被告木村捨象、同関野房夫、同北原広男を理事に選任する旨の決議、がいずれも無効であることを確認する。

四、被告学校法人は、第一審原告らに対し、千葉地方法務局においてなされた被告学校法人の登記のうち、

1、訴外肥後亨が昭和三四年一一月一六日理事に就任した旨の同月一七日付登記、

2、第一審被告豊田耕作が同年一二月三日理事に就任した旨の四月四日付登記、

3、第一審被告川島正次郎が同月七日理事に就任した旨の同日付登記、

4、同月八日、理事兼理事長訴外川崎守之助が辞任し、第一審被告川島正次郎が理事長に就任した旨の同日付登記、

5、第一審被告宇佐美敬一郎が同月二七日理事に就任した旨の昭和三五年一月五日付登記、

6、昭和三五年一月一六日、訴外藤井一郎、同武居文助、同小川為幸、第一審被告北原広男が理事に、第一審被告松本栄一、同南義弘が監事に各就任した旨の同月二〇日付登記、

7、第一審被告平田梅治が同年一〇月一七日理事に就任した旨の同月二八日付登記、

8、理事第一審原告青木運之助、同安藤儀三が昭和三六月四月二四日理事を退任し、監事訴外田中聖賢が同年六月一二日監事を辞任した旨の同月二九日付登記、

9、同月一三日第一審被告川島正次郎、同宇佐美敬一郎、同豊田耕作、同千谷利三、同平田梅治、同南義弘、同北原広男、同堀口貞雄、訴外白鳥義三郎、同佐藤正典、同武居文助が理事に、第一審被告松本栄一、訴外田中聖賢が監事に就任し、理事長たる理事第一審被告川島正次郎以外の理事は代表権を有しない旨の同月二九日付登記、

10、同年七月一〇日、第一審被告鈴木光勤、訴外小沢久太郎が理事に、第一審被告原勇記が監事に就任した旨の同月二一日付登記、

11、昭和三九年三月二三日、第一審被告木村捨象、同関野房夫が理事に就任した旨の同年四月一四日付登記、の各抹消登記手続をせよ。

五、(イ)、第一審被告川島正次郎は被告学校法人の理事ならびに理事の、第一審被告宇佐美敬一郎、同豊田耕作、同千谷利三、同平田梅治、同南義弘、同北原弘男、同堀口貞雄、同鈴木光勤、同木村捨象、同関野房夫は被告学校法人の理事の地位にないことを確認する。

(ロ)、第一審被告松本栄一、同原勇記は被告学校法人の監事の地位にないことを確認する。

六、訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。」旨の判決(右第五項は当審において新たに請求した)ならびに、

昭和四二年(ネ)第一六三号控訴事件につき、控訴棄却の判決を求め

第一審被告ら代理人は、昭和四二年(ネ)第一四号控訴事件につき、控訴棄却の判決を求め、

被告学校法人の代理人は、昭和四二年(ネ)第一六三号控訴事件につき、

「原判決中被告学校法人勝訴の部分を除きその余の部分を取り消す。第一審原告らの請求はいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用および認否は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の事実欄に記するのと同一であるから、ここにこれを引用する。

第一審原告ら代理人において、

一、被告学校法人と理事、監事との関係は委任もしくは準委任に関する規定に従うものであつて、その就任または辞任は被告学校法人との間にあつては直ちに(就任の場合は本人の承諾をもつて直ちに)効力を生ずるものであるが、これを善意の第三者に対抗するためには登記を要するのであるから、被告学校法人としては善意の第三者に対抗させるために登記をなす義務を負うものといわねばならず、私立学校法第六六条第一号の規定は右解釈を裏付けた当然の規定である。従つて、前記のとおり第一審原告らが現在被告学校法人の理事の職務を行いうる者であり、右法人を除く第一審被告らは右法人の理事、監事でないのであるから、被告学校法人に対し右事実に副うように変更登記を求める第一審原告らのこの点に関する各請求には法律上の利益がある。

二、当審における新たな請求の原因として、従来主張したとおり第一審被告ら(被告学校法人を除く)は現在被告学校法人の理事長、理事、監事の地位にないにもかかからず、第一審被告らはこれを争うからその確認を求める。

三、後記第一審被告らの当審における主張について。

(い)の主張に対し、

訴外川崎守之助、同佐久間徹は、昭和三四年一〇月二三日の被告学校法人の持廻り理事会で同学校法人の理事兼理事長ならびに理事の辞任方を応諾し(甲第七号証の三)、同年一〇月二九日までに右法人に同人らの辞任届が到着していることは甲第一八号各証により明らかで、さらに甲第七号証の四によるも、同人らの辞任届が被告学校法人に昭和三四年一一月一九日迄に到着していたことが明らかである。

(ろ)の主張に対し、

被告学校法人の昭和三四年一二月二七日の理事会は第一審被告川島正次郎の招集した無効な理事会である。

(は)の主張に対し

乙第二四号証(佐藤正典の証人調書)によるも、二五日の懇談会の席上で既に「川島さんがこれから理事となります。皆さんご異存ありませんか。」と発言されており、かかる状況下では、右発言内容のような積りで会議が進められたものというべく、右川島らは前記二七日の理事会の議事の進行ならびに議決権の行使についても影響を及ぼしたものと認められる。

(に)の主張に対し、

昭和三四年一二月二七日の理事会は、理事長以下理事(委任状による代理出席者を含む)全員がその開催につき同意した理事会ではないから、無効である。と述べた。

立証(省略)

第一審被告ら代理人において

(い)、被告学校法人の登記簿(甲第一号証)によれば、理事訴外佐久間徹は、昭和三四年一二月七日辞任した旨、理事兼理事長川崎守之助は同月八日辞任した旨それぞれ記載してあるが、右登記簿の各記載は実体に符合しない虚偽のものである。

理事長または理事は何時でもその職を辞任できるが、その辞任の効力は、少くとも辞任の意思表示がこれを受ける権限のある相手方に到達して初めて発生する。

被告学校法人の寄附行為第五条第三項ならびに私立学校法第三七条の各規定によれば、理事が辞任しようとするときは理事長に対し、理事長が辞任しようとするときは他の理事に対し、辞任の意思を表示し、これが相手方に到達して初めて辞任の効力が生ずるといわなければならない。

しかるに、訴外佐久間理事は右辞任登記のなされた以前に、即時無条件の辞任を訴外川崎理事長に申し出た事実は全然ない。

また右川崎理事長も他の理事に対し同様の辞任の申出をなした事実はない。

訴外佐久間理事の辞任の登記が第一審被告川島正次郎の理事就任の登記と同時になされ、訴外川崎理事兼理事長の辞任の登記が第一審被告川島の理事長就任の登記と同時になされていることは登記簿上明らかであるところ、右川島の理事または理事長就任の各登記が実体と符合しないものであることは原判決判示のとおりであるが、右登記と同時に申請され、同一事項欄に同時に記載されている訴外佐久間理事、同川崎理事兼理事長辞任の登記もまた実体と符合しない虚偽の登記である。

訴外川崎が事態収拾のため理事長として各理事にあて発した文書(甲第七号証の三)には、(1)役員全員は大学刷新教育向上の見地から全員辞任することとし、辞任届を一応理事長に預け、新役員就任の時この辞任届は受理されるものとすること、(2)新役員の人選は第一審被告川島に一任すべきこと、(3)千葉地方検察庁に於て取調中の告訴告発事件につき寛大な処置を求める嘆願書を提出する旨決議すること、というものであつて、当時の右川崎、佐久間両名の辞任は、自己の後任者の就任を停止条件として辞任するというにあり、右意思表示は訴外佐久間理事については、同人が前記文書に賛意を表し、辞表を右川崎理事長に提出したときに到達したが、条件が未だ成就せず、右川崎理事長は辞表は作成したが、何人にも交付していないから、未だ表示すらなされていず、右川崎理事長の意思表示は昭和三四年一二月二七日の理事会の成立によりこれに表示されて到達したと解するほかはない。他方右両名の辞任の条件は、同理事会における理事の選任ならびに理事長の互選と同時に条件が成就し、右両名の辞任の効力がここに生じたものと解さなければならない。

(ろ)、第一審被告川島が昭和三四年一二月二七日開催の被告学校法人の理事会を招集した事実はない。

右理事会は前々日の二五日の懇談会終了の際、二七日には理事会に切り替える旨の相談ができ、その席上に訴外川崎理事長も出席しており、理事長が積極的に理事会の招集を告知しなかつたとしても同人において異議を主張しない限り、右川崎理事長が前記理事会を招集したと見るのが妥当である。

(は)、訴外川崎、佐久間両名は、前記のとおり、自己の後任者が選任され次第辞任すべき旨を表明していた者であるから、その後任者を選任すべき理事会に出席し、議決権を行使するのは当然のことである。また、第一審被告川島正次郎は後継理事長に予定されている人であるし、同豊田耕作は校友として本件紛争解決のため努力し前記二五日の懇談会の発起人の一人でもあつたから、右両名が前記理事会に同座しても不思議はなく、右両名が理事就任を強く希望し、この希望達成のため会議に影響を与えるような言動があれば格別、そのような事実はないから、前記理事会の決議を無効とする理由はない。

(に)、第一審被告らは、前記理事会の招集手続に瑕疵があり、それが同意により治癒されたと主張したことはない。その主張の骨子は、理事全員(理事長をも含む)が理事会の開催に同意すれば、その同意の時において招集手続も適法に経由されたとすべきであるというにある。けだし、被告学校法人の寄附行為によれば、招集手続の要式を規定した条項はないのであるから、その手続としては理事長において特定の日時、場所において理事会招集の意向のあることを理事全員に了知できる状態におけば足るのであつて、各理事がこれを知り、同意している以上、あらためて理事長が通知する必要はないからであるる。仮に、第一審原告安藤が前記理事会開催に同意しなかつたとしても、昭和三四年一二月二五日電報をもつて右理事会招集の通知をしているのである。

仮に、原判決の判示するように、右理事会において、理事に非ざる者が表決に参加したとしても、それは議決方法に瑕疵があるというにすぎず、招集手続自体の適法、不適法の問題とはならない。

(ほ)、なお、当審における第一審原告らの主張事実のうち、第一審被告らの従来の主張に反する部分は否認する。

と述べた。

立証(省略)

理由

一、まず第一審原告らの理事であるとの確認の請求について判断する。

1、被告学校法人が私立学校法に基づく学校法人であつて、千葉工業大学を設置運営するものであり、その余の第一審被告らが被告学校法人の理事または監事としてその職務に従事している者であること、第一審原告らがいずれも昭和三二年四月二四日被告学校法人の理事に就任し、寄附行為第一〇条第一項により理事の任期が四年と定められているため昭和三六年四月二四日任期満了により退任すべきであつたこと、寄附行為第一〇条第三項には、役員はその任期満了後でも後任者が選任されるまではなおその職務を行なうと定められていること、昭和三六年六月一三日控訴の趣旨三の8記載の理事会の決議および同年七月一〇日同項9記載の理事会の決議がそれぞれなされ、後任理事が選任されたとしてその旨の各登記がなされていること、寄附行為第六条第二項に、理事会は理事長が招集するものと定められており、招集の方法が理事全員に対して理事会開催の通知をなすべきこと、第一審被告川島正次郎が控訴の趣旨三の5記載の理事会の決議により理事および理事長に選任されたとされていること、ならびに第一審被告らがいずれも第一審原告らの理事たる地位を争つていることについては当事者間に争がない。

2、被告学校法人以外の第一審被告らに対する請求について、

当裁判所も原審と同じく被告学校法人以外の第一審被告らに対する第一審原告らの理事であることの確認を求める請求が訴の利益を欠き不適法なものとして却下すべきものと判断するが、その理由は原判決理由(原判決原本二六枚目裏三行目から同二七枚目表八行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

3、被告学校法人に対する請求について、

(イ)控訴の趣旨三の2ないし4記載の各理事会が開催されず、その各決議はいずれも無効であり、したがつて昭和三四年一二月二七日当時までに第一審被告川島正次郎が理事および理事長に、第一審被告豊田耕作が理事にいずれも適法に選任されていなかつたことは当事者間に争いがなく、原本の存在ならびに成立に争いのない甲第三号証の一、成立に争いのない甲第八号証の一および四、乙第二四号証によれば、控訴の趣旨三の1記載の理事会は開催されておらず、その決議は無効であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はないから、訴外肥後亨も右日時当時理事でなかつたことは明らかである。

(ロ)次に昭和三四年一二月二七日控訴の趣旨三の5記載の理事会の決議がなされた外観の存すること、および右理事会に第一審被告川島正次郎、同豊田耕作、訴外肥後亨、同川崎守之助、同佐久間徹が出席し、訴外川崎守之助、同佐久間徹が決議に参加したことは当事者間に争いがない。

そして成立に争いのない甲第一、第二号証、第七号証の三、第八号証の一、第九号証の一、二、第一八号証の一、二、乙第一号証の一ないし一五、第二号証の一ないし四、第三号証の一ないし三、第一四号証の一ないし六、原本の存在ならびに成立に争いのない乙第二四ないし第二六号証、第二八、第二九号証、当審証人佐久間徹の証言、当審における第一審被告豊田耕作の供述に本件口頭弁論の全趣旨を併せ考えると、次の事実が認められる。

すなわち、これより先、訴外坂本重威が被告学校法人の理事であつたところ、昭和三三年六月に学生ストがぼつ発し、同訴外人がその責任をとるという問題が起つたが、昭和三四年五月ころ以降被告学校法人の理事の間で派閥争いがおこり学内紛争が再び激化し、同法人の設置する千葉工業大学では同年一一月二五日学生大会で、理事全員の総退陣の要求を決議するに至つた。当時の理事兼理事長であつた訴外川崎守之助ならびに常任理事であつた訴外佐久間徹はそれ以前にすでに、右学内紛争をおさめるため辞任することを決意し、当時右川崎は幹事の訴外長幡保良に対し、後任者の選任の時に辞任する趣旨で辞任届を書いて預け、また佐久間も同様の趣旨で辞任届を提出した。そして、同年一〇月二三日付川崎理事長による持廻り役員会の附議案件には「役員全員は大学刷新教育向上の見地から全員辞任することとし辞任届を一応理事長に預け新役員就任の時この辞任届は受理されるものとすること」等と記載し大部分の役員の賛同を得た。ところがその後訴外肥後亨の関与するに至つた後の前記(イ)記載の各決議の効力につき疑問が生じたので、新理事長らによる被告学校法人の再建ならびに無効といわれている右各決議の善後措置のため、その対策が考えられ、第一審被告豊田耕作、訴外古荘四郎彦ならびに同長幡保良が世話人となつて関係者の懇談会を開くこととなり、昭和三四年一二月二二日付の通知を、訴外川崎守之助、同佐久間徹、第一審被告川島正次郎、訴外肥後亨、同古荘四郎彦、第一審原告青木運之助、同安藤儀三、訴外川崎大次郎、第一審被告千谷利三、同平田梅治、訴外武居文助、同佐藤正典、第一審被告豊田耕作、訴外長幡保良、同田中聖賢、同長谷川亀次郎他弁護士四名に対し送付のうえ、同月二五日午后に東京都千代田区永田町東京グランドホテルにて懇談会を開いた。

当時被告学校法人の設置する千葉工業大学では、教授会、助教授会、助手会、右大学の一般職員一同ならびに同大学の同窓生有志は殆んど一致して新理事長には第一審被告川島正次郎を迎えることを要望し、その旨それぞれ決議していた。ところで、右懇談会には第一審原告安藤儀三、訴外川崎大次郎および津田弁護士は欠席したが、第一審原告青木運之助、訴外川崎守之助、同佐久間徹を始め、前記通知を出した全員が出席し、訴外古荘が座長となり、まず、新理事長ならびに新理事の予定者の人選にはいつたところ、新理事長に第一審被告川島正次郎を、新理事に同豊田耕作を選任することに出席者一同異議がなく、その他の理事の予定者の顔ぶれも大体決つたが、第一審原告青木が代表権限を有する副理事長になりたいと言い出したため、結局翌々日の二七日に再度懇談会を開き、この時には引き続いて理事会を開くことになり、出席者一同これを諒承し、当日の前記欠席者にはこの旨を通知した。特に第一審原告安藤に対しては、右二五日に理事長名で一二月二七日一二時グランドホテルにて理事会をするから来られたき旨の電報が打たれた。そして、右二七日には前記場所で前回と同じ出席者のもとに懇談会が開かれ、第一審原告青木が副理事長に就任することには手続的にも問題があり、同人も強く主張しなかつたので、右問題は解決した。そこで、引き続き同日正午ころより同所において訴外川崎守之助、同佐久間徹ら前記出席者一同出席のもとに理事会が開かれた(右懇談会に引き続き理事会が開かれたことについては当事者間に争いがない)。この理事会を構成する理事としては、その当時訴外川崎守之助、同佐久間徹のほか、訴外古荘四郎彦、同川崎大次郎、同武居文助、同佐藤正典、第一審原告青木運之助、同安藤儀三、第一審被告千谷利三、同平田梅治が就任していた。そして、右の理事のうち第一審被告千谷は右理事会に出席後中途で退席して議決権の行使を訴外佐藤に委任する旨の委任状を理事会に提出し、第一審原告安藤儀三および訴外川崎大次郎は当日も欠席したが、右川崎は議決権の行使を訴外古荘に委任する旨の委任状を理事会に提出していたほか、その他の者はいずれも右理事会に出席していた(右関係者のうち安藤、川崎大次郎が欠席し千谷が早退したほか他の者が出席していたことは当事者間に争いがない)。なお第一審原告安藤に対しては、前記懇談会が終り理事会が始まる前に、第一審原告青木から電話で懇談会の結果を報告するとともに理事会が始まるから委任してほしい旨連絡した。かくして右理事会においては、出席理事の全員一致で、(1)昭和三四年一二月三日の理事会で決議された形式になつている第一審被告豊田耕作を改めて理事として選任し、(2)同月七日の理事会で決議された形式になつている第一審被告川島正次郎を改めて理事に選任し、(3)同月八日の理事会で決議された形式になつている訴外川崎守之助理事兼理事長の辞任を改めて承認し、その後任として第一審被告川島正次郎を理事長に互選し、(4)第一審被告宇佐美を理事に選任し、同豊田とともに両名を常任理事に選任する等控訴の趣旨三の5記載の各決議がなされ、その場で右決議事項を記載した理事会決議録に理事その他の出席者一同が捺印し、また欠席者千谷については訴外佐藤が、同川崎大次郎については訴外古荘が、同安藤については第一審原告青木がそれぞれ代理して捺印した。

かように認定することができ、そして成立に争いのない甲第二号証によれば、被告学校法人の寄附行為第六条において、前記のとおり「理事会は、理事長が招集する。」との規定があるほか、「理事会は、理事の過半数の出席がなければ、その議事を開き議決をすることができない。但し、当該議事につき書面をもつて、あらかじめ、意思を表示した者は出席者とみなす。」「理事会の議事は、   理事の過半数で決し、   」等と規定されているが、理事会招集の方法についてはなんらの規定がないことが明らかである。

ところが第一審原告らは、右認定と異なり、前記理事会開催以前すでに訴外川崎守之助は理事兼理事長を、訴外佐久間徹は理事を辞任していた旨主張するが、これに副うがごとき成立に争いのない甲第八号証の一、(川崎守之助の供述調書)、原本の存在ならびに成立に争いのない甲第二四号証(坂本重威の供述調書)、乙第二五号証(佐久間徹の供述調書)の各記載部分、および当審証人佐久間徹の証言部分は前顕証拠と比照しにわかに採用しがたい。また成立に争いのない甲第七号証の四によると、右川崎、佐久間らの辞任届が遅くとも昭和三四年一一月一九日までに被告学校法人に提出されていたことは窺えるが、これをもつて右川崎、佐久間らがその当時確定的に辞任していたことを認める資料とするには十分でない。さらに前記の伺月二三日付持廻り役員会文書(甲第七号証の三)に川崎、佐久間両名も賛成として捺印していることが明らかであるが、同文書には前記認定のとおり後任者就任の時に辞任届が受理されるものとすると記載されているのであるから、このことはなんら前記認定をするのに妨げとなるものではない。さらにまた前記川崎、佐久間の各辞任届(甲第一八号証の一、二)の各日付は昭和三四年一〇月二九日付となつており、辞任の文言にはいずれも条件は付されていないけれども、前顕証拠を併せ考えると、右各日付は事務処理上任意に書かれたもので、その日付自体さして意味をもつものではないことが推認されるし、前顕各証拠と比照すると、右辞任の文言のみからその各辞任が条件付でなかつたと認めることはできない。また、前記甲第一号証によると、昭和三四年一二月七日佐久間が、翌八日川崎がそれぞれ理事ないし理事長を辞任した旨登記されていることが認められるが、右各登記は前記認定のとおり訴外肥後亨の取り扱つた無効の決議による第一審被告川島正次郎の理事または理事長への就任の登記とそれぞれ同時になされているものであることが右書証により明らかであるから、佐久間、川崎の右辞任の登記のみが実体に符合するものとしてそのように認定する資料とするわけにはいかない。なおまた前記乙第二号証の二(昭和三四年一二月二二日付役員懇談会送達簿)に川崎、佐久間の肩書としてそれぞれ「旧理事」の記載が存するが、前顕証拠によれば、これらの記載は被告学校法人のすでになされていた登記の記載などの関係から事務当局において右のように記載して処理したものと推認されるから、かような記載のみをもつてしては前記認定を動かすに足りない。また、前記理事会決議録(前示甲第九号証の二、乙第三号証の一)の末尾の役員署名捺印欄における川崎、佐久間の肩書部分に「立会人前理事長」「前理事」等の記載が存するけれども、前記認定のように同理事会において川崎理事長の辞任が承認されるとともに川島新理事長およびその他の後任理事が選任され、これにより川崎、佐久間の辞任の効力が発生したのであるから、この決議後決議録作成の段階において旧役員としての肩書を付してもなんら異とするに足らず、これをもつて川崎、佐久間が右理事会開催以前にすでに辞任し、右両名が同理事会の決議に参加しながら理事でなかつたということの証左とすることはできない。その他前記認定を覆し川崎、佐久間が右理事会以前にすでに辞任していたことを認めるに足りる証拠はない。したがつて昭和三四年一二月二七日の右理事会まで訴外川崎守之助は理事兼理事長、訴外佐久間徹は理事の職にあつたものといわなければならない。

次に第一審原告らは右理事会は理事長でない第一審被告川島正次郎が招集した違法なものであると主張するが、前記のように右理事会を開催することを申し合せた前々日の関係者懇談会には右川島も出席したが理事長たる訴外川崎守之助も出席していたのであつて、その席で右のような申合せがなされた以上、その申合せに基づく同理事会の開催は招集の権限を有する訴外川崎守之助の招集にかかるものと認めるべきであり、また右懇談会に欠席した第一審原告安藤に対する理事会招集の電報(前示甲第九号証の一)も単に「理事長」名義で発せられているが、これまた理事長たる訴外川崎守之助によるものと解するのを相当とするから、第一審原告らの右主張は採用のかぎりでない。

第一審原告らはさらに右理事会の招集手続に瑕疵がある旨主張する。ところで被告学校法人の寄附行為には理事会の招集手続につき特段の定めがないことは前記認定のとおりであるから、理事会の開催前に予めその日時、場所および議題を理事全員に了知されるよう理事長において配慮すれば、十分であると解すべきところ、前記認定のように昭和三四年一二月二五日の懇談会で理事長川崎守之助出席の下に第一審原告安藤ならびに訴外川崎大次郎を除く全理事が役員の改選を協議し、引き続き同月二七日もこれを続行したうえ、同日理事会を開催する旨申し合せたのであるから、出席者全員において右理事会の日時、場所ならびに議題を了知していたものというべきであり、右欠席者のうち第一審原告安藤に対しては前記認定のとおり同月二五日理事会の日時、場所を明示した招集の電報が打たれ、議題については前記認定の当時における諸状況および原審証人坂本重威の証言によると、第一審原告安藤には右理事会の主たる議題が役員改選の問題であることは特にこれを明示するまでもなく、同人において当然これを了知していたことが認められるから、右安藤に対する招集通知としては欠くるところはなく、また訴外川崎大次郎については、前記認定のとおり同人から予め同理事会における議決権の行使につきこれを訴外古荘に委任する旨の委任状(前示乙第三号証の二)が提出されていた事実に徴すると、右川崎に対しても事前に理事会の日時、場所、議題が通知されていたことを推認するに難くない。そうだとすれば、前記二七日の理事会にはその招集手続になんらの違法はないものというべきである。また、かりに右安藤、川崎両名に対する招集通知になんらかの瑕疵があつたとしても、両名がもし適法な招集通知により右理事会に出席したと仮定しても、前記認定の事実に徴するとその決議の結果に影響のないことは明らかであるから、そのような瑕疵は決議の努力に消長を来さないものといわなければならない。

そして被告学校法人の前記寄附行為に定める理事会の定足数たる過半数以上の九名の理事が出席(たゞし、第一審被告千谷と訴外川崎大次郎は委任状を提出していたが、この両名を除くとしても、定足数以上の七名が出席)していたことは前記認定のとおりであり、そして出席理事全員一致によつて控訴の趣旨三の5の各決議をしているのであるから、右理事会の決議は有効になされたものといわねばならない。

ところが第一審原告らは当時理事でない訴外肥後亨、第一審被告川島正次郎、同豊田耕作が右理事会の決議に参加した違法がある旨主張し、同理事会開催の際に同人らが理事でなかつたことは前記のとおりであり、また同人らが右理事会に出席していたことは前記のとおり当事者に争いのないところである。しかし、前記認定の事実および前示乙第三号証の一(甲第九号証の二)により明らかなように、右理事会には右肥後ら三名のほか直前の懇談会に出席した監事、弁護士らも全員出席していたのであり、そしてこれらの者のうち肥後ら三名が特に議事に参加し議決権を行使したことはこれを認めるに足りる証拠はなく、右理事会では前記認定のとおり出席理事全員により異議なく決議されているのである。もつとも同理事会の決議録(前示乙第三号証の一、甲第九条証の二)には、訴外肥後亨は理事として捺印していないものの、第一審被告川島は理事長、同豊田は理事としての肩書の下に捺印しているのであるが、しかし右川島、豊田は同理事会においてそれぞれ理事長、理事に選任された者であること前記のとおりであるから、その関係でかかる記載、捺印がなされたことは、これを推認するに難くはなく、したがつてこれをもつて右川島、豊田がそれぞれ理事として決議に参加したことの証左とすることはできない。そして本件においては、右肥後ら三名の出席自体により理事会の決議に不当な影響を与える状況にあつたこと、または右理事会において右肥後ら三名が決議の結果に影響を与えるようななんらかの言動に及んだことについては、これを認めるに足りる証拠は見出し難い。第一審原告らは前記乙第二四号証(証人佐藤正典の供述調書)によると、二五日の懇談会の席上で「川島さんがこれから理事となります。皆さんでご異存ありませんか」と発言されている状況下では、二七日の理事会における議事および決議に影響を及ぼしたと主張するが、理事会以前の非公式な懇談会においてかかる発言があつたからといつて、この一事により直ちに同人の理事会への出席がその議事ないし決議に不当な影響を及ぼしたものということはできないし、また、右理事会前に川島が理事兼理事長に、豊田が理事に選任されることが関係者間において予定されていたからといつて、これと同様の結論となつた理事会の決議を無効とすべき筋合のものではない。

次に、第一審原告らは右理事会の決議のうち控訴の趣旨三の5の(イ)ないし(ハ)の決議は前記のように無効な控訴の趣旨三の2ないし4の決議を追認するものであるが、無効な決議を追認しても有効となるものではないと主張する。なるほど右理事会の決議録(前示乙第三号証の一、甲第九号証の二)によると、右各決議は従前の無効な決議を確認する形式がとられているが、その真の趣旨は同理事会において改めて豊田、川島を理事に選任し、また川崎理事長の辞任を承認するとともに川島を理事長に互選するものであつたことは前記認定のとおりである。前示甲第一号証によると、右無効な決議に基づく就任、辞任の登記がその後もそのまま維持されていることが明らかであるが、それもこれらの登記がその後の理事会における右決議によつて結局実体に符合するにいたつたためと認められるから、なんら右認定の妨げとなるものではなく、また成立に争いのない甲第一九号証(文部省への報告文書)の記載もこれを覆すに足らず、他に右認定を左右するに十分な証拠はないから、第一審原告らの右主張も採用することはできない。

以上のとおりであるから、第一審原告らの昭和三四年一二月二七日の理事会の決議が無効である旨の主張は理由がない。

そうすると、第一審被告川島正次郎は右理事会の決議によつて有効に理事に選任され、かつ理事長に互選されたものといわねばならない。

(ハ)  次に右理事会以後において第一審原告ら主張の控訴の趣旨三の6ないし10記載のような理事会または評議員会の各決議がなされたこと、ならびに右理事会および評議員会の招集者がいずれも第一審被告川島正次郎であることについては当事者間に争いがなく、第一審原告らは右各理事会等の決議は理事長でない川島の招集によるもので無効である旨主張するが、右川島は正当に理事長として招集の権限を有していたものであることは前記のとおりであるから、第一審原告らの右主張は理由がない。

そうすると、昭和三六年六月一三日開催の理事会における控訴の趣旨三の8の決議および成立に争いのない乙第六号証により明らかなとおり、同決議によつて第一審原告ら両名の同年四月二四日限りの任期満了による退任が承認されるとともにその後任者がそれぞれ選出されているのであるから、第一審原告らはいずれも右任期の満了により理事を退任し、また昭和三六年六月一三日限り寄附行為第一〇条第三項による理事の職務を行う地位をも失つたものといわねばならない。

以上の次第で、第一審原告らが、被告学校法人との間において、被告学校法人の理事であること(または理事の職務を行う地位にあること)の確認を求める本訴請求は失当として棄却を免れず、被告学校法人の本件控訴は理由がある。

二、第一審原告らの控訴の趣旨三記載の、第一審原告らと第一審被告らとの間の各決議無効確認の請求については、当裁判所も原審と同じくその請求はいずれも訴の利益を欠き不適法なものとして却下すべきであると判断するが、その理由は原判決理由(原判決原本二七枚目表一一行目から同二八枚目裏六行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

三、第一審原告らの控訴の趣旨四記載の、第一審原告らの被告学校法人に対する各抹消登記手続の請求について判断する。

1、前示甲第一号証によると、控訴の趣旨四の各登記のうち、1ないし3の登記、4の登記中就任の登記、5ないし7の登記および9の登記中訴外佐藤正典、武居文助の就任の登記はいずれもその後における登記対象者の退任または辞任の登記手続によりすでに抹消されていることが明らかであるから、これらの登記の抹消登記手続を求める請求はその利益がなく不適法として却下すべきである。

2、控訴の趣旨四の各登記のうち前項記載以外の登記で第一審原告らを登記の対象者としないものの抹消登記請求が許されないと解すべきことについては、次に附加訂正するほか、当裁判所の見解も原判決と同一であるから、これについての原判決理由(原判決原本三四枚目表二行目から三五枚目裏五行目まで)を引用する。

したがつて、結局第一審原告らは他人に関する就任、辞任等の登記の抹消登記手続を請求することについては法律上の利益を欠くものというべきであるから、第一審原告らを登記対象者としない右各登記の抹消登記手続を求める請求も不適法として却下すべきである。

3、控訴の趣旨四8の登記のうち第一審原告らが昭和三六年四月二四日理事を退任した旨の登記については、その当時第一審原告らが、任期の満了により退任したことはすでに認定したとおりであるから、右登記は実体に符合するものであつて、これが抹消登記手続を求める第一審原告らの請求は理由がない。

四、次に、第一審原告らは、当審において新たに、第一審被告川島正次郎は被告学校法人の理事長ならびに理事の、第一審被告宇佐美敬一郎他九名は被告学校法人の理事の、同松本栄一他一名は被告学校法人の監事の地位にないことの確認を求めているので、まず確認の利益の存否について判断するに、学校法人の理事ら役員たる地位は学校法人と当該役員との間に成立する法律上の地位であるから、その当事者以外の第三者が、これが地位の存否の確認を求めるためには、それと特段の法律上の利害関係を有する地位にある者でなければならないところ、前記認定のとおり第一審原告らは現在被告学校法人の理事またはその職務を行う者ではなく、またその他特段の法律上の利害関係を有する者であることについてはこれを認めることはできないから、第一審原告らは自己以外の者についての被告学校法人の理事等の地位の存否に関しその確認を求める法律上の利益を有しないものといわねばならず、第一審原告らの右請求はいずれも不適法な訴として却下を免れない。

五、よつて原判決中第一審原告らが被告学校法人の理事の職務を行いうる者であることの確認の請求を認容した部分および抹消登記手続請求のうち控訴の趣旨四4の訴外川崎守之助辞任の登記、同8中第一審原告らの退任の登記以外の登記および9ないし11の登記に関するものの請求を棄却した部分は失当であるから、原判決を変更し、前者の請求を棄却し後者の請求を却下すべく、また控訴の趣旨四8の第一審原告らの退任の登記の抹消登記手続を求める部分の請求を棄却し、その他の請求は当審における新たな請求である控訴の趣旨五の請求を含めていずれもこれを却下すべく、民事訴訟法第三八四条、第三八六条、第八九条、第九六条、第九三条に従い主文のとおり判決する。

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